最終回では、石井さんがこれまでのインタビューでもご紹介した「アイデア創発」の職業をはじめたきっかけについてお話を伺いました。また、これから新しく生まれてくる職業など、石井さんが思い描く日本の未来について語っていただきました。

「人とロボットが同居している状態において、
乗り越えにくいなんらかの壁」に目を凝らす

石井:今までクリエイティブな職業に付いている人は1%に満たなかったかもしれませんが、下り坂の2050年までは、多くの子どもたちがクリエイティブ職業に就くことが、普通の未来だろうと思います。それはどういう仕事なのか。それはやはり今は無い職業になるでしょうね。
例えば「アイデアプラント」は、僕が子どものころには存在し得る職業だとは思えませんでした。今になってみると、自分がこうして成り立っている。あと5年10年すると、僕みたいな仕事の人って、もっと普通にいるだろうと思うんです。
もっと言うと、30年後・・・僕は今41ですが、71歳になったときには、ギリギリ残っているかもしれないけれども、そのときには、もうオールド・ファッションの仕事、電話交換手のように消えていく仕事になっていくだろうと思います。
人に「アイデア出し」のプロセスやメソッドを教える、「発想」の道具を作って提供するくらいのことは、コンピュータがエージェントとして教えてくれるくらいになるでしょう。
「ブレスト」の道具なんて、もっともっと普通にあって、別に新鮮も無い仕事になる、その未来では一体何を人々がしているんだろうな、と思います。
ロボットにできないことばかりを、人がもっともっとしていく、今は「クリエイティブ」って呼んでいる部分をもっともっとミクロにしていくと、複雑でロボットにはできないこと、それから人間の感性の奥底の部分、まだまだよくわかっていない未踏の闇みたいな部分を良くしていく。
一品ものだからロボットにはさせられなかった、というようなクリエイティブ職も、それはロボットの能力がもっともっと上がってくればできてしまうかもしれないですよね。
例えばウェブ・ページを作るのは、ロボットには今はまだできないですか?

桐谷

桐谷:今はできないですけども、もうじきできると考えてます。

石井:そうですよね。一品一様の、毎回一品ものなので人がつくるのが前提でしたけれど、そのうちロボットがつくれるようになっちゃうわけですよね。

桐谷:そういう流れがきていますね。これは、10年くらい前からいつかはそうなると言われていましたが、本当にそれが現実に近づいてきています。
だから私は、今石井さんがお話しされたように「チーム・ビルディング」や「コミュニケーション・ビルド」、その部分をやっていかないかぎり、私たちは生き残れないんじゃないかという危機感を持っています。

石井:そうですよね。単にコーディングしたり、タグ打ったりするようなことは本当にゼロになるでしょう。
もちろんコンテンツに暖かみとか、人間の感情や感性の深いところを切り出していくことは人間しかできないので、そういう意味で、最終的にここに何が残るかというと、やっぱり"感情"とか"感性"なんだろうなと思うんです。
ただ「AI」が感情や感性を代替するようになったら、ここも無くなるのかと言われたら、その判断は難しいですけどね。

桐谷:デザインも、もう人工知能の時代で、パーツとパーツの組合せである程度のところまでできるようになってくると思います。そのときに今おっしゃったような感性とかが残っていく、あるいは「コミュニケーション・スキル」、人の意思に埋もれているような、潜在的能力を引き出していくような、ウェブの制作会社と言えども、そういうスキルがなければ生き残っていけないんじゃないか、という気がします。

石井:そうか、そういった意味では、"高いところから水が低いところに流れる"、このポイントをいつも社会に見出していくことが、これからを知ることだと今ふと思いました。
商社にいたころ、よくこの構造でビジネスを見ていました。
商社の仕事は変わってきました。
もともとは国内の離れた地点や、日本と海外の長距離、モノを運ぶのが商社でした。
ただモノを運ぶのは、船が良くなったり飛行機が良くなったりで造作もなくなるわけです。
しかし言語や商習慣の壁はなかなか取り除けなかった。なので言語の壁を取り払うために日本国内の企業は商社を使って輸出をしますよね。
かつては物理的な壁、距離の壁を越えさせることにビジネス価値があった。そのあとは言語の壁を越えさせることにビジネス価値があった。
しかし、自前の輸送手段もできあがり、言語も十分に闊達になってくると、商社を利用せずしてメーカーは直接輸出するようになり、商社が不要になってくる。
そうすると、次の何か、高低差を見つけなきゃいけないですよね。
高低差があってみんなが登れない壁。そこを昔はモノの移動、そのあとは言葉とか言語の壁があった。その先にまた壁がきっとあるはずなんですよ。
あらゆる商売の源泉は、差のあるところに存在している、それを商売の集中地である商社では、よく思いました。
話を戻します。ロボットと人が同居している社会生活において、生まれてくるある種の高低差がないか、目を凝らしてじっと見るときっとあるはずです。その高低差に水の流れができていて、そこを超えさせることはビジネスになる。「ロボットにできて人間にできないこと」「人間にできてロボットにできないこと」じゃなく、「人とロボットが同居している状態において、乗り越えにくいなんらかの壁」の出現に目を凝らすべきなんでしょう。

石井力重さん

"尊敬される企業が毎年輩出される国にしたい"
石井さんが描く日本の未来予想図

桐谷:石井さんは、ご自身の職業と日本の未来をオーバーラップさせて、何を目指しておられますか?

石井:僕が、モデルにしている会社があります。
「中村ブレイス」という、島根の山奥にある、義足や義手を作っている会社です。
『日本でいちばん大切にしたい会社』という本にも出てきますが、実は本にとりあげられる前から知っていました。その会社は「メディカルアート」といって、化粧がのるような品質で、いろんな体の一部をつくるんです。欠けてしまった体の一部を補うことで心まで補いたい、と考える会社なんですね。
その会社に訪問したいな、でもその会社に訪問するに値する立派な男になってからアポを取ろう、って思っているうちに、会社の存在を知ってから3年経ってしまいました。
そして3年経ったときに、「このまま一生行くに値する男になれなそうな気もするから、勇気を出してアポ取ってみよう」と思って、手紙を書いてやりとりしていくうち、訪問の機会をもらうことができました。
創業者の中村俊郎(なかむらとしろう)さんにお会いして工場を見せてもらうと、彼らは自分たちの仕事をすごいようには語らないんですけども、お客さんへの愛が溢れるのが、手付きとかに見えるんです。
圧倒的な愛が製品のフォルムに宿っていくのが見える。その工場を一日見学させてもらうときに、そのうち、顔が下に向けなくなってきました。涙がたまって、下に向いたら、涙が落っこちてしまう。それくらいに、その姿勢に感じていました。
僕にとっての「尊敬される会社」の原風景です。こういった尊敬される会社が次々に生まれてくる、そういう世の中を作りたい、と思いました。
そのためにできることは、僕は財力があるわけではない、政治力があるわけでもない、僕が持っているのはクリエイティビティの知識だけだ、と。
クリエイティブなことを、道具とかメソッドとかで渡していこう。年間に2000人の人に創造技法の講演や授業をする。毎年10社、20社、100社くらい話す。それを今年も来年も毎年やる。すると、20年たつ頃には、100社のうち10社くらいは事業成功し、1社は突き抜けて尊敬される会社になる。そういう未来に資することをしようと考えました

石井:20年後の日本というのは、今みたいな大きな経済プレゼンスはなくて、アジアの中の小さな島国という認識に、きっとなっているでしょう。
世界においては、とっても小さい存在になっているだろうと思うんですが、外国人がアジアに旅行するときに、「なんて言ったっけ、アジアのいちばん東の端っこにある島、あそこからすごく尊敬されるいい企業が出てきて、去年もなんか違う会社が出てきて、来年もすごく注目企業が出てきそうんだよな」といわれるようになっていたらいいなあ、と。
ジャパンという言葉はみんながそれほど知らなくなるかもしれないけれども、キラッと光るような尊敬される企業が、毎年輩出されるような、そういう国にしたい。
そのために、僕は創造研修でいろいろな人に、伝えます。
そういう未来にたどり着きたい、というのが、僕の夢、野望です。
それが、『アイデアプラント』の事業理念、「創造的な人や組織が次々に生まれてくる社会を作りたい」、という言葉の本当の奥底にある思いなんですよね。
なので、本当の理念を叶えるための、道具が『アイデアプラント』なんです。
『アイデアプラント』というのは、実は僕の志を叶えるための道具、というのが根底にある考えです。
やっぱり、経済的には小さくなるでしょうけども、ただ、国レベルの生産性は下がっても、日本人が変わることで、世界から注目されるような組織が出てくる、それはきっとあるんじゃないかな、と思うんですよね。
なので、今日みたいな取材を受けることも、100社のうちの1社が『デジパ』なわけです。
2015年当時は、ウェブ制作とかコンテンツ制作とか「チームビルディング」をしていたあの会社が20年経って、アジアから注目される、非常にクリエイティブな"渦(うず)"を作りだす会社になっていて、尊敬される会社で、多くの人を幸せにしている。...そういう未来にたどり着いているかもしれない。
そういう目で、会っている一人ひとりを見ています。
彼らに、未来の可能性を一つでも開けるように、メソッドでも知識でも渡したいなと、これがいつもの僕の基本姿勢ですね。
なので出し惜しみなし、すべて使ってくださいね、という姿勢は、そこから生まれているものなんですよね。
どんどん提供して多くの人が使ってくれる、その使ってくれた姿に、新しい洞察を得て、僕のコンテンツが新しくなっていく、知識が増える、そのほうが大事だなと思うので、こういうスタンスでやっています。

桐谷:ありがとうございました。

石井力重さん

石井力重さんの著書 『アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置』(日本実業出版、2009年)>

石井さんとの対談インタビュー、全4回にわたって公開いたしました。
ありがとうございました。

第1回目のインタビューはこちら

第2回目のインタビューはこちら

第3回目のインタビューはこちら

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