アイデアプラント代表 石井力重さん(第1回/全4回)
数々のワークショップやコンサルティング等で活動、多くの企業や公的機関など幅広い分野でブレストのサポートなどアイデア発想支援の第一線で活躍されている石井力重さん。全4回のインタビューを通して、「お堅い組織のほぐし方」「アイデアの出しやすい環境」などなど、アイデアの創出について様々な視点からお話を伺いました。
石井力重さんのプロフィール
アイデアプラント代表。アイデア創出支援の専門家。
1973年千葉県生まれ。東北大学大学院・理学研究科修士課程卒業。
2014年4月より早稲田大学・人間科学部にて非常勤講師も勤める。
ブレインストーミングや創造技法の実践と理論の両面に強い興味を持ち、創造工学(Creative Problem Soiving、TRIZ)を研究中。(所属学会:日本創造学会)
「アイデア発想を支援するツール」の作家として多様なアイデア発想ツールを開発。
全国各地の企業、大学、公的機関等、また海外で先端技術産業や行政、漫画家まで多岐に渡ってアイデアワークショップを実施。人がアイデアを考え出す際のプロセスを研究しており、そこから、創造的思考を補佐する「アイデア創出の道具」を創出している。
著書に『アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置』(日本実業出版、2009年)
「集団を小さくする」ことで
本音が出てくる場をつくる
(聞き手/デジパ:桐谷、木下)
桐谷:『NPO法人 アイデア創発コミュニティー推進機構』の「アイデア創発ファシリテータ養成講座」コースを受けてから、実際に活用させていただいております。
石井:ありがとうございます。講座に学びに来てくださった人が実践してくださるのは、本当に嬉しいですね。
桐谷:社内のメンバーから講座について教えてもらい、面白そうだと思いまして参加しました。初めて「ブレスト」のやり方というものを教えてもらったんです。最近よく使うのが、同じテーマで2分くらいでたくさんの人に回していくという...。
石井:「スピードストーミング」ですね。
桐谷:はい、社内でも使っているんです。
石井:何人くらいでやられているんですか?
桐谷:5人くらいです。クライアントのブレストでも活用していて、とても好評です。
石井:ありがとうございます。
よく、広告を出すときにブリーフィングに来て、話し合いをしますよね。
そうすると担当者がいて、後ろには偉い人がいっぱいいて、なかなか本音では本当に何を作って欲しいのか言えないことが多いじゃないですか。
本当に選択して欲しいことのインサイドが取れないから、「後日あらためて」なんていうことになるわけなんですが、広告代理店の人に、「スピードストーミング」の話の方法をお勧めしたんです。「クライアント・チームとペアでお話ししましょう」、そして「時間たったら、またずれてやりましょう」と。
そうすると、部長クラスの方がたくさんいるとなかなか言葉を発しなかったクライアントが、「うちは本当は、ああいう感じじゃなくて、もっとこういうテイストでCMをしたいんですよね、でも上司は反対していて」といったような、なかなか言えないようなことを、結構言ってくれるようになったそうなんです。
そのような感じで、集団を小さくすると結構みんな話してくれるというのはあるんですよね。
桐谷さんのところも、クライアントと話すときは、こういったやり方をしますか?
桐谷:先日、10年くらいお付き合いのあるクライアントで、リニューアル前の「チームビルディング」をやりました。
まず、デジパの制作担当3名と、先方の担当者3名で人数を合わせて、「他己紹介」をおこないました。
石井:いいですね。
桐谷:この「他己紹介」でアイスブレイクをして、それから「制作前にどんな不安がありますか」というのをポストイットに書き出して分類していき、分類した中からひとつのテーマを選び出しました。相手のアイデアの良い所に光を当てて、肯定的なコメントをするという石井さんの「プレイズ・ファースト」の考え方を使わせていただいて、担当者同士で3回「スピードストーミング」をおこなったんですがとても盛り上がりました。
石井:桐谷さんの会社ですから、相当みなさん話しもうまいでしょうけど、小さくすると、よりしゃべりやすくなるかもしれないですね。
桐谷:そうですね。教えていただいた2分、3分の短い時間で回していくと、かたまった枠が外れていくのをすごく感じるんですよね。
石井:いいですよね。15分あります、というと最初の5分くらいは様子見というか、おずおずしゃべりますよね、「いやー、最近どうですか」といったような。でも2分しかないというと、すぐに本題に入らなきゃいけないですよね。
桐谷:そうなんですよね。だから、2分×3回のわずか6分で、あれだけのアイデアが出てくるのは素晴らしいと思っています。本当に"目からうろこ"でした。
「ありがとうの文化」を醸成することが
実は創造の効率を上げている
桐谷:うちのプロジェクトでもクライアントのプロジェクトでも、うまくいくプロジェクトは、わりとコミュニケーションが活発にされていて、そういう組織のコミュニケーションが解放されているチームはうまくいくイメージがあります。
しかし固い組織って、なかなか、そこがあまり崩さなかったら、最後にプロジェクトで"どんでん返し"を食らうんです。
ウェブ制作が仕事なので、最終的にウェブを公開するというのがミッションなんですが...。
石井:コミュニケーションがうまくいっていないと、「言ってあったじゃん」「いや、すみません」という事象が起こりますよね。
桐谷:そうなんです。それがうちの会社とクライアントの問題ではなくて、例えば「営業部」と「広報部」との問題だったりとか、クライアント同士の中での事業部同士のコミュニケーションができてない中に、"どんでん返し"が起こったということが、年に1~2回ありました。
できるだけクライアントの権限者を「キックオフ」という場に集めて、それでチームビルディングというワークショップを、大きめのプロジェクトだと最低4時間やるようにしています。接点となる人だけじゃなくて、できるだけ奥にいる人たちにも出てきてもらって、コミュニケーション、情報共有、そしておなかにあるものを全部吐き出してもらおうということを、やっているんです。
石井:いいですね。
桐谷:同じ会社同士でも、言えてないことってありますよね。部署間が違っていて、利害が反する部署とか「営業」と「制作」部署が仲が悪いとか、というのがありがちだと思いますが。
そのお腹にあるものを少しでもいいから減らしてくれると、割りとうまくミックスしやすくなるということが起こりやすいんですよね。
石井:そうですよね。実は以前、とてもクリエイティブな制作をすることで有名なある会社に、一週間滞在させてもらったことがあるのですが、今の話に関係したところを感じたんです。
製作チームがいてブレストをしていて、私はそこをよく見に行っていました。
クライアントの言うことって、フワっとしているわけですよね。
「こんなことをやりたい」、「新しいプロモーションをやりたい」、でも、要件定義が全然なされていない。「ウェブでこういう展開をしたくて」とは言わずに、屋上の上にオブジェを作ってみんなが見るとか、そういうのでもいいし、なんだったらウェブの代わりにクッキーを焼いて、それをみんなで食べる、とか「手法はどうでもいいんだけども、なんか人がフワーって集まってくるような、こんなことできないかな」と。
普通の会社だと、要件定義がなされていないクライアントの言葉というのは、クライアントと接する営業担当が自分なりに補って要件定義してしまっているんですよね。そして、営業担当者は社内にもどって、本当にきっちりかっちり伝えられる部分だけ伝え、未確定の部分は落としちゃったりしますよね。
そうすると受け取った次の部署は、こういうものから、そこからみんなでいろいろな想像力を膨らまして広げるわけですよね。そして、自分たちの仕事として仕上げて要らない部分は切り落として、次の部署へ送ります。これを繰り返していくわけです。都度、広げ直すわけです。時々、伝言ゲームみたいな、とんでもないものになっちゃうことも。
石井:ところがその会社さんの場合は、フワっと広がっていて境界線も曖昧なまま、まるごとドンっと次のところに任せることができる。次の人も、「曖昧だなあ」なんてことは言わずに、そのまま広げるので、最終的にはものすごく効率が良いんです。未成熟な概念とか未確定なことも、そのまま相手に伝えられる、そういう文化だったんですよね。
だから、次々にああいう面白いことができるんだな、と僕は思って。
ちなみに、それを可能にしてるものは何なのかが、滞在させてもらった最終日にようやくわかりました。例えば、ブレストが終わってある程度まとまったとになって、さっき言わなかった人がアイデアを持ってくる場合がありますよね。もうある程度まとまったあとなのに言いに来られたら、「いまさら言われても遅いよ、さっき言ってよ」と言ってしまう人が多いと思うのですが、「ありがとう、良いね、それは」って受け取る。その会社さんの重視している「ありがとうの文化」を醸成することが、実は創造の効率を上げているんだなぁと、気が付いたのでした。
石井さんが考える
「お堅い組織のほぐし方」とは?
桐谷:なかなか柔らなくならないお堅い組織の場合、石井さんはどうやってほぐしていかれるんですか?
石井:難しいですよね。
人は、質が近い人には合わせられます。
「うちは固くて、でも、創造性が必要だから、なんとか創造性研修をやってよ」と言う場面、いかにも柔らかい格好をしていくと、みんな、いきなり質が合わないんですよね。
「さあ、今日はみんながんばろう!」とトップスピードで回すと、みなさんのギアはゆっくりでしか回っていないので、思い切り回るギアが歯を欠けさせてしまって、ますます空滑りする。
誰も付いていかない、講師ばかりがトップギア、そんなことって、よくあるんです。
そこで、いきなりトップスピードにしない、まずはじめは重いトーンで話して、相手と質を合わせて、ゆっくりゆっくりギアが回るようにする。そして徐々にこちらのギアが早まってきて、向こうも早まってきて、だんだんとお互い早くなってくる。
石井:僕は、クリエイティビティを、重たい鉄の円盤みたいなモノだと思っています。
多くの人は、それが静止してしまっていて、全然回っていないんです。
桐谷さんみたいに、軽快で、少し喋るとくるくる回ってくれる人は、いきなりトップスピードでお互い喋ることができるわけですけど、重たい鉄の円盤が回っていない人に対しては、ゆっくりゆっくりですね。理屈でわかる創造性の話しとか、ちょっと体験してわかるような創造性の技法とかを実践します。
それで相手が「おっ、いけるね?」となって、回転が早くなってきたら、少し難しめの効果の高いものをやって、最後のほうはお互いにトップスピードでくるくる回る。
重たい人はですね、重たいから質量が大きいので、トップスピードに上げてあげると、そのあとほっといても、ギューンっと回っています。
相手に質を合わせて、重たい円盤がゆっくりにしか回らないときには、それに最初は自分も合わせてゆっくりとチカラをかけてあげて、ちょとずつ相手の歯車をゆっくりゆっくり回していくということを意識しています。
桐谷:業種、業界、職種によって、そうなんですよね。
それはやはり本当に理屈から行かないと理解に進めないケースもありますし。
石井:そうなんですよね。
で、僕の仕事だと、宇宙開発の研究所みたいなところにも行けば、マンガ家さんのところにも行くわけなんです。
なので、相手の質をあわせるというのは、とっても重視しています。
今日は大学のマンガ学部だ、というときには理屈っぽい話しは抜き、最初からふわっとした、アーティスティックな方向から入る。
あるいは、高校でブレストといったら、「みなさん、こんにちは」なんて言うと、「固い人が来たな」ってなるので、プロレスの司会者みたいな感じでやる。
そんなふうにして、多重人格者じゃないですけど、相手の質に合わせて、相手の回転数、相手のクリエイティブティの回転がいいようにする、っていうのがいちばんだろうなっと思いますね。
それが、私の固い組織への対処方法です。
(次回へつづく)
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