国際環境NGOグリーンピース・ジャパン代表の星川氏に、わたしたちの未来をどのように明るくしてゆけばよいか、インタビューを行いました。

星川淳さん

自らを「人と自然の共存する持続可能なシステムを作り出すデザイナー」と位置づける国際環境NGOグリーンピース・ジャパン代表の星川氏に、わたしたちの未来をどのように明るくしてゆけばよいか、インタビューを行いました。

「外なる自然 内なる自然 連れ添う自然」

(聞き手/デジパ:桐谷、西山)

桐谷

弊社は数年前から「半農半X」の働き方を目指してきたのですが、ちょうど去年から一部のスタッフを除いて全員スーパーフレックス制を導入し、一方では皆で耕せる土地を探し、具体的に実践しようとしているところです。星川さんは随分前から屋久島で「半農半X」の生活を営んでこられましたよね。

星川

わたしは書く仕事をしていましたのでそれを「半農半著」と呼んでいましたが、屋久島では自分たちの家族単位において"食べ物を自分たちでつくる""書く仕事をする"というサスティナブルな暮らしをある程度まではかたちにしていました。

ただ一つの場に根をおろして10年、15年経つと、地域の問題が耳に入り目にもします。その中で森林伐採だとかゴミ処理問題だとか、いくつかどうしても黙っていられないことがでてきてしまって、反対の声をあげたことが結果的には実を結んだんですね。そうしてすこしずつ「政」の現場に近づけられてきたという経緯がありました。

インタビューの様子写真

桐谷

20代の頃から星川さんの著書に親しんできた私は、グリーンピース・ジャパンの代表に就任されたとうかがったときには驚きました。

星川

最終的にはパートナーである妻に背中を押してもらい、屋久島の住まいも畑もそのままに、長い出張のつもりでいまの仕事に就いています(笑)。

ITの世界でもシステムデザインという言葉を使うと思いますが、わたしの取り組んでいることもまさにそれで、自分はシステムデザイナーであるという自覚をもってやっています。もっともわたしの場合は範囲が非常に広くて、人間も自然も含み、法律から交通からエネルギー、食糧など、生きることの全体に関わる地球と人類社会のシステムデザインになりますが。

桐谷

いま日本は、環境問題・エネルギー問題・食糧問題など様々な問題において転換期を迎えていると考えているのですが、どういう方向に向かってゆけば再生を果たせると考えておられますか。

星川

日本列島は、世界に類を見ないくらい恵まれたところだと思っています。こんなに自然が豊かで、気候に多様性があって、水が豊かで、太陽が照って、様々な可能性が開かれた場所はなかなかない。ここで、わたしたち人間が持続可能な生き方を追求できないなんて、ありえないことなんですよ。

問題は、人間社会のシステムデザインがあまり上手くないことです。個々の人や組織のレベルでは優れていても、日本国という集団として優れた合意を形成するという点において、まだまだなんだと思います。

環境問題は、自然のシステムと我々人間の社会システムがうまく折り合えないということですが、自然のシステムは変えられません。ほぼ100%に近いくらいインテリジェントで"賢い"わけです。だとすれば、日本の社会システムがそれと折り合えるようにレベルアップしていかなくてはいけない。それが日本の課題です。

桐谷

そのためにはビジョンがなくてはいけませんね。

星川

そうですね。サスティナブルな社会に向けて、個々の人たちが「やらなくてはいけない」ではなくて、「こうしたほうが楽しい」「このほうが得をする」と自然にプラスの意識が働くような社会システムをつくっていくことだと思います。

そして、正しい税金の使い方は言うまでもありませんが、我々がその使われ方をきちんとチェックすることです。

桐谷

日本ほど税金の使い方が下手な国もないと言われたりしますが、グリーンピース・ジャパンを代表する星川さんとして、いま伝えたいメッセージはどんなことですか?

星川

「監視・問題提起・代案提示」、この3点をひとりひとりが自分の責任、国民あるいは市民の責任として行うという姿勢が、もう少し皆の間に浸透してほしいですね。

わたしたちはその名の通り、グリーン(環境・自然)とピース(平和)を守る・維持する・作るというのが本業なんですけれど、わたしたち国民が、自分達で選んだ議員がつくる政府、そして政府が税金を使うシステムをチェックするということ、ダメなことはダメと言うこと、そしてただダメと言うだけでなく代案を出すということ、それが成されてはじめて「グリーン」「ピース」を守る、維持する、作り出すということができると思うのです。

なぜなら、「監視・問題提起・代案提示」の大前提がないと、わたしたちが本当に望んだものが実現できているのかが分からないからです。本当の意味で守るべき自然を守れないかもしれないし、求めている平和を作り出すことができないのではないかと強く思いますね。

桐谷

なるほど。グリーンピース・ジャパンとしては今後の活動、具体的なキャンペーンなど動きはありますか?

星川

今年は国連の生物多様性年で、10月には名古屋で「COP10」という国連生物多様性会議が開かれる年で、グリーンピースも参加することになっています。

生物や生態系の多様性、あるいは人間の多様性、考えや文化の多様性、そういうものを日本社会は許容する、受け入れられるように舵を切る年にしたいですね。

実際、多様の方が楽しく、力も出るんですよ。同じような人たちばかりで同じような意見ばかりだと弱体化してしまうし、なにより楽しくありません。いろいろ多様なものを奨励したり、互いに認め合ったりしてその中から互いに力を引き出し合う社会になっていくと、日本の再生につながると思います。

西山

その活動や、活動を通して「伝える」という側面から、メディアについて考えておられることを聞かせてください。

星川

1973年にグリーンピースができたときからずっと、メンバー一人ひとりが自前のメディアとして発信していくというのが得意なNGOで、今もなおそのDNAは強く残っています。

グリーンピース・ジャパンとして考え実践しようとしているのは往々にして主流の考え方とは違う「異論」や「代案提示」なわけですが、欧米に限らず、日本以外の社会だと正論であれば通じることがあります。仮に通じなくても、わたしたちの考えには非暴力の「アクション」がともなうので注目を集めることはできるし、そうすると意見が集まってきて議論のきっかけを作ることができる。それがグリーンピースの基本的なやり方なんですけど、日本で同じことをやってもなかなか通用しないんですね。たとえ正論だとしても。

そこには日本独自の国民性や民族性という側面も絡むので難しいのですが、わたしたちにもNGOとして「監視・問題提起・代案提示」の責任があるので、その狭間で試行錯誤を続けながら日々「伝える」という行為について考えています。「これだ」という答えにはまだ到達していません。

結構苦しいこともありますけどね。応援は少ないし、叩かれる時はめっちゃ叩かれるし(笑)。

一同

(笑)

星川

ただ言えるのは、一方通行のコミュニケーションだけではダメだということです。自分たちの主張を理解してもらい、応援してもらうのがこれまでのやり方だったとすると、これからはたくさんの人たちが自分たちでアイデアを広め、行動を呼びかけるのを手伝うようなやり方が主力になるでしょう。

インタビューの様子写真

西山

なるほど。これまでには、数々のきびしい局面も乗り越えてこられたと思うのですが、とても落ち込んでしまったときの復活法をお聞きしたいのですが。

星川

復活法ね。僕、やることは2つあって。いや、3つかな。

まずは自然の中に身を置きます。もともと人間も自然界の一部ですから、自然に溶け込んで行くとなにかしらのパワーをもらえますね。

2つめは、雑念を払って自分の存在の根っこのようなところに立ち返るということをします。若い頃から精神世界に通じてきたのですが、だいたい落ち込むっていうのは自分の「思いの世界」のことで、そこからいったん離れて気持ちをリセットするためのトレーニングは積んできましたので。

そして3つめに、パートナーと過ごします。身近な人、特に男女関係というのはすごく大事な場だと思っています。男性にとって一番近い存在の自然は自分の心身ですが、その次に近いのがパートナー、女性です。自然を大切にする人間として、やはりすぐ隣の自然、連れ添う自然は大切にしたいと思っています。

「外なる自然、内なる自然、連れ添う自然」――いいコピーができました(笑)。

一同

おお!(笑)

西山

最後に、『未来は明るいですか?』

星川

未来ですか。うーん。(しばし沈黙)

明るくしようと思えば、明るくできます。暗い材料はいくらでも出てくるけれども。そして僕は常に明るく見ています。

なぜなら、基本的な理解として、自然も人間も含めた宇宙は何が原動力かというと「創造性」、「クリエイティビティ」だと思っているんですよ。自分自身もクリエイティブな人間なので、常に新しいものが出てくるし、創ることができるし、「創ること」自体が僕らの存在理由なわけです。

そこに賭けていると言ってもいいかもしれません。目一杯クリエイティブであるということが生命の本質だとすれば、未来は明るいと思います。

桐谷 西山

今日はお忙しい中ありがとうございました。

(写真・文 : 西山由利子)

※インタビューに掲載されている企業・団体様の活動と弊社は一切関わりがございません。

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