ソニーにおいてCD(コンパクト・ディスク)の開発者やエンタテインメントロボット「AIBO」「QRIO」の製作総責任者として知られる天外伺朗さんに、インタビューを行いました。

天外伺朗さん

天外伺朗さんのプロフィール

ソニーにおいてCD(コンパクト・ディスク)の開発者やエンタテインメントロボット「AIBO」「QRIO」の製作総責任者として知られ、2006年まで同社上席常務を務める。ソニー在席時から数多くの執筆をこなし、著書に関連した多分野の講演を行うほか、氏が開塾した「天外塾」では多くの経営者を指導している。

「素に生きる」

(聞き手/デジパ:桐谷、西山)

桐谷

以前から「天外塾」メルマガを講読しているのですが、地域通貨についてよくふれておられますよね。私は地域通貨というものが日本を再生するキーじゃないかと思っているのですが。

天外

私もそう思っています。ただ、今流通している地域通貨そのままでは、日本は再生できません。というのは、いまは公的通貨である日本円とコンフリクトしないように、こそこそと小規模にやろうとしています。もちろん、それによって人々のコミュニケーションや信頼を勝ち取るという姿勢は素晴らしいと思います。そこは受け継いだらいいと思うんですけど、はるかに大きな規模を考えています。経済の半分以上を地域通貨が支えるようになれば、いわゆるギャンブル資本主義から離脱できるのではないかということです。

インタビューの様子写真

桐谷

経済の半分以上ですか。

天外

はい。その他にギャンブル資本主義から離脱できる手立てがない。

まずはグローバリゼーションから離脱してローカル中心の経済になる。これは昔に戻るようなことで、当然効率は悪いです。でも効率よりも信頼を重視した社会にしようじゃないかということです。

いま、ほとんどの人が、かつての高度成長を夢見て成長、成長と叫んでいる。これは無理ですよ。昔のやり方で日本経済を復活させることはできない。この50年で、ドル換算で日本人の給料は50倍になっている。たとえば中国で財政上の投融資といって道路や橋をつくったら、それは経済の活性化に一定の効果があるので非常に有効です。でも、日本というのはインフラはもうほとんど完備してるから熊しか通らない道路しか投資先がない。

それにいまの政府のようにお金をばらまいても、貯蓄をする人もいるし、物を買ったとしても、それがMADE IN CHINAだったりする。それはつまり日本経済に貢献しないんですよ。

あるいは規制緩和で企業の活性化を図っても、これまでだったら従業員の給料が上がって購買意欲が上がり、経済が活性化するということがありえたけれども、いまは中国と戦わなくてはいけないから給料上げるわけにいかない。かつて有効だったどの手をうってもいまは効かない。給料が10分の1の国と戦わなくてはいけない状況で、勝てるわけないのですね。

桐谷

そこで、ローカル化なのですね。

天外

はい。グローバリゼーションから逃れて、ローカルな経済がそれぞれ活性化していくということ。それの道具として地域通貨しかないというのが僕の発想なのです。

桐谷

経済の半分を地域通貨が支えるとなると、それは銀行で流通するのでしょうか。

天外

銀行ではなく、信用金庫だろうね。その地域が広がっては意味がなくなるから。 そして時間とともに目減りする仕組みにする。目減りするからこそ活性化するわけですよね。みんな貯金しないで使いますから。

桐谷

なるほど。この記事の読者層は20代から40代のビジネスマンが多いのですが、彼らの中で生き方に対する迷いや不安感、これからどう進んでいったらいいのだろうというような空気が蔓延している気がしています。

私も天外さんの提言に影響を受け「農ある暮らし」を始めなくてはと、一念発起、南房総に引っ越したところなのですが。

天外

そうですか。それはそれは。

ただ、「そうせねばならない」という感じになるよりは、周りも整って自分も整って、自然にその方向に行くのがいいですね。"運命の法則"という本に少し書きましたけど、「こうあらねばならぬ」というのは、脳でいうと大脳新皮質の働きで、論理や理性で自分や他人をコントロールするということをしようとするんだけど、宇宙がそういう流れにならないときは、いくら自分の意志で動こうったってあんまりうまくいかないというのが僕の考えです。

桐谷

自分をコントロールしないというのは、難しいですね。

天外

そうそう、でもコントロールをやめると、内側の自分が出てくるの、ちゃんとね。

コントロールしようとしている自分というのは意識の表面のところにある、いわば新皮質による自分であって、それがいなくなると人生はうまくいきますよということを書いてます。これは経営の本にも書いていますよ、これができれば経営もうまくいくと。

桐谷

それは、エゴとか我というものでしょうか。

天外

そう。エゴそのもの。 たとえば日本のトップレベルの経営者であっても、「私は自分がたいしたことないことを知っていますから」というところから話し始めたりする、つまり私の本でいうところの「愚者の演出」ということなんですが、これができるということはすごいことなんですよ。

社長さんというのは、だいたい「賢者の演出」をしようとするのですよ。私の方が部下より優れているということを演出しようとしたりして。でもそれをすると、会社はあらぬ方向へいってしまう。だからといってそれをエゴでもって新皮質的に真似するとダメなのですね。真似しちゃいけない。

桐谷

それでは「愚者の演出」ができる経営を目指すにはどうすれば?

天外

いくつかのステップがあって、ひとつには「やりすごし宣言」というのがあります。"非常識経営の夜明け"に書いていますが、自分の指示命令が違っていると思ったら、自由にやり過ごせということを社長自ら宣言するのです。これ、大変ですよ、結構。(笑)

桐谷

かなりストレスが多そうですね(笑)

天外

その「やりすごし」はどこでもできるわけではない、普通の会社でそれをやるとすぐ経営は傾いてしまうから、あるステージへ到達している会社でやってくださいということも書いています。

同様に、「長老型マネジメント」もいきなりやるのではなくて、まずは「やりすごし宣言」ができるところまで会社がステップアップする必要があります。

桐谷

禅の世界のような感じがしますね。

天外

そう、同じですよ。禅の言ってることと全く同じ。だから仏教というのはやっぱりすごいなって思っています。私が経営の世界で見つけたことは結局仏教がいってることだったり、老子がいってることだったり、全部通じるものですね。

そこから外れると、例えば鉄鋼王カーネギーなんかが提唱したアメリカ流の成功哲学というのがありますが、それを信じて一生懸命やってるとひっくり返る人がいっぱいいたりする...

西山

それはなぜだと思われますか。

天外

運命っていうのは波があって、ピークもあればボトムもある。ピークに登ることばっかり教えると、ボトムも深くなるわけ。そのボトムに耐えられなくなるとおかしくなっていく。

成功、成功といってピークを目指しても、ボトムに対処できるようなところまで人間として成長しなくていなくては何にもならない。

私はアメリカでコンピュータビジネスに従事してましたので、アメリカのIT業界で成功してきた人は何人も見てきました。会社を作って売り、莫大な金を手にして素晴らしい家を持ってヨットを持って、それでも精神を病んでしまった人を随分知っています。

成功することだけを目的にしてしまうと、そういうことが起きます。人間や人生の本質は何かということに少しは気付いてほしい。それを"GNHへ"という本に書いたつもりですが、なかなかカンタンには伝わらない。みんな成功に目が行っているから。

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桐谷

そういう教育を受けてきているというのもあるんでしょうね。

天外

そうですね。世の中全体がそうなってるから、染まっちゃってる。

でも若い人達は、そこからちょっとはみだしている人が多い。だから、やっぱり人類というのは進化してるなって感じています。神戸の震災以来、災害が起きると多くの若者がボランティアに行く。ペシャワール会の伊藤さんは殺されてしまったけど、ああいうところに日本人がとても多く行っているし、インドのコルカタにあるマザー・テレサの「死を待つ人の家」のボランティアは日本人が一番多いんですよ。キリスト教国からもっとボランティアが来てもよさそうなもんだけど、日本人の方が多い。それを見てると、日本の若者というのは進化してるなというふうに感じるね。

みんないろいろ心配してるけどさ、私は全く心配してないよ。日本はいい国だと思ってるし、若者にはいい人がたくさん育っているし、将来はすごい明るいと思ってるよ。

桐谷

日本の将来は明るいと言っていただける方が、世の中にそういないのですが...

天外

いや、すごい明るいですよ。景気が悪くなろうとGDPが中国に抜かれようと、それは進化の一貫だと思ってるから。人類が進化して社会が進化すると、どうしてもGDPは下がってくるんですよ。

日本はようやくそこまできているし、若者がちゃんと育ってるしね。

いま社会の上層部にいるひとよりも、社会からちょっとはみ出したりしてる若者のほうが人類として進化してると思っています。社会の仕組みが古いわけだからね。

人類が進化して、仕組みに合わない人が沢山出てくると社会が変わる。それが社会の進化のしくみだから、どうしてもその枠組みの方が後になるよね。

桐谷

変わった社会の仕組みというのは、なんだと思われますか。

天外

まず、いまの仕組みというのは、産業革命以来経済産業が発展して軍事力が強くなって、国として発展してないと植民地にされたという時代の名残です。日本はうまく逃れましたけど。それが社会の一番上にあるわけ。「成長しないといけませんよ」というのが。

そういう仕組みがある意味では資本主義という形になっていったんだけど。でもそろそろその呪縛からは開放される、成長神話から脱却できる時代になってきた。経済産業がすごい発展をしてなくても、国が滅びる心配がだんだんなくなってきましたよという時代になって、それに適応する若者がうまれてきてるんですよ。

団塊の世代と呼ばれる世代よりさらに上の僕らは、ものすごく一生懸命頑張ってきた世代だけど、そういう立場から彼らを見ると「覇気がない」というふうに見えたりする。でもそれはそうじゃないと思ってる。

ボランティアに行ったりしている彼らを見てると、僕らの世代よりはるかにまともになっているし、もうちょっと内面の充実を考えているし、社会に関しても経済産業の発展以外のところもちゃんと見てる若者が増えてるという気がします。

桐谷

それは共生社会に近いのでしょうか。

天外

共生社会というと、また「共生を強制する」みたいな感じになってしまうので...(笑)余分な装いを減らす。余分なカッコつけを減らす、余分ながんばりを減らすということかな。

もっと人間の原点に立ち返るという社会でしょうね。

桐谷

それが天外さんの言う「素」なんですね。

天外

そうそう、それが「素に生きる」なんです。

桐谷

天外さんの「素に生きる」の中には"歌・踊り・祈り"とありますよね。祈り=瞑想が、エゴとか我というものから解かれて、素に生きていくための私には一つの大きな手法なのですが、天外さんにとっての瞑想というものをお聞かせいただきたいのですが。

天外

さきほどの話しと関係しますが、人々がエゴを追求することによって経済産業が発展しているのは、人間の新皮質がものすごく活性化している状態なんです。新皮質というものは後から発達したもので、新皮質が働いている時には機能が重複してる旧皮質を抑圧しているという状態になります。

スポーツでも、運動をしている時に新皮質が働くと、計算スピードが遅いので結果が出なかったりしますけど、スポーツの時だけじゃなくて、現代文明人というのは新皮質が活性化して古い脳が萎縮している状態で、正常ではないことが起こっている。私の言う「フローに入る」というのには、古い脳が活性化しなくてはいけないなので、どうしたら新皮質を少しおとなしくさせて、古い脳を活性化できるかという、そのひとつの手段が瞑想なんです。新しい脳と古い脳のバランスがとれているのがこれからの新しい人類で、現代の文明人というのは新しい皮質がすごい活性化して、古い脳が縮こまってる。だから生命力がないんです。

桐谷

なるほど。では若者の間でもっと瞑想があたりまえのものになっていくのでしょうか。

天外

そうですね、瞑想を取り入れることで、さらに人類として進化していく可能性は大いにあるでしょうね...

桐谷 西山

今日はお忙しい中ありがとうございました。

インタビューの様子写真

※インタビューに掲載されている企業・団体様の活動と弊社は一切関わりがございません。

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