大学卒業後、介護業界で起業。そんな秋本さんが、就職という道を選ばずに起業をした理由や、なぜ「介護」に焦点を当てたのか、また今の介護の現状に必要なものは何か、お話をいただきました。

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秋本可愛さんのプロフィール

株式会社Join for Kaigo代表。
1990年12月22日生まれ。山口県出身。
大学2年生の春に起業サークルFor Successでプロジェクトチームsep-arrangeを結成。認知症予防に繋がるフリーペーパー「孫心(まごころ)」を発行し、全国の学生フリーペーパーコンテストStudent Freepaper Forum 2011にて準グランプリを受賞。
2013年4月大学卒業後に株式会社Join for Kaigoを設立し、「介護に関わる全ての人が、自己実現できる社会をつくる」をビジョンに掲げ、若者が介護に関心を持つきっかけや若者が活躍できる環境づくりに注力。
超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ「HEISEI KAIGO LEADERS」を運営。

チームメンバーが持っていた認知症の原体験
それが私の介護の入り口でした

(聞き手/デジパ:木下)

木下:大学時代に起業サークルに所属していたとのことですが、就職という道を選ばずに起業した理由を教えていただけますか?

秋本:そうですね・・・本当のところを言うと、あまり考えていなかった、というのもあるのですが(笑)
経緯からお話をすると、私には今101歳になるひいおばあちゃんがいるんです。特養には入っているのですが、認知症でもないですし、つたったら歩行もちゃんとできるくらいまだまだ元気なんですね。おじいちゃん、おばあちゃんも、要介護認定は受けていません。有り難いほどに家族みんな元気で、介護とは縁遠く、全く興味がありませんでした。

大学では商学部を専攻していたのですが、2年生のときに起業サークルにご縁があり入ることになりました。
そこで一緒にチームを組んだメンバーのおばあちゃんが認知症で、自分のことを忘れられてしまったという原体験を持っていました。
それが、何と言うんでしょう、私の介護の入り口、始まりだったと思います。最初は介護というよりは、「認知症」というものから入っていったんです。

メンバーの想いから、「認知症による悲しみを減らす」をビジョンに掲げて、認知症予防につながるコミュニケーションツールとしてのフリーペーパーを発行することになりました。
そこでフリーペーパー製作の過程で、認知症について調べていたりはしたものの、ネットの情報だけだとリアリティがなくてもっと自分で体感したいと思い、介護現場でアルバイトを始めました。

そこからかなり問題意識が広がりましたね。
認知症についてはデータや情報として見るのと、リアルで接するのは全然違いました。
きれいな話ではないのですが、例えば便を食べてしまう、とか。症状として起こりうることは知っていましたし、ご本人は「便」という認識がないことも分かっていましたが、実際に見るとやはりショックでした。今まで知識として聞いていたものが、本当にこうなってしまうんだ、とありありと現実を感じさせられたんです。

もちろん、そういった問題だけではなく、おじいちゃん、おばあちゃんから学ばせてもらったこともたくさんあったり、認知症の人は私たち介護士の関わり次第で症状の変化も見れたりして、現場はとっても楽しかったんですよ。
でも一方で、ご家族さんからの虐待、介護を放棄してしまう現状や経済的な課題、他にも、本人はここに通い続けたいと思っているけれども、家族としては、もう施設に入れてしまいたい、という現状であったり。当事者だけではなく、職員も辞めてしまう人が多かったりと、様々な問題がそこにはありました。

view_image06.jpg写真提供:HEISEI KAIGO LEADERS

深刻な人材不足や若者の無関心
介護に遠い人たちに、どうこちらを向いてもらうか

木下:人手不足は深刻ですか?

秋本:私がアルバイトしていた現場は、常に人手不足でしたね。
私は、本当は大学4年生の12月くらいにアルバイトを辞めようと思ったのですが、もうちょっとでいいから入っていてほしい、という状態で、結局卒業後の4月まで続けていました。

木下:そのアルバイトを通して、今のお仕事への道ができあがったんですね。

秋本:そうですね
様々な問題を目の当たりにしてフリーペーパーを始めましたが、それだけではだめだ、じゃあどうしていくのか、ということを大学3~4年生のときにかなり悩みました。原体験がなかったので、認知症にこだわりがあったわけでもなく、全部解決するためにはどうすればいいんだろうって、本気で悩んでいました。(笑)
全部が繋がっていて、どれも大切で、どれも選べない、ということで、シンプルにもっと多くの人が問題解決に関わればいいのでは?と思うようになりました。

その中で強く問題意識を感じていたことが2つあります。
1つは、言葉を選ばずして言うのであれば、学生のときは大人には無理だ、と思っていたんです。
現場では私が一番年下だったのですが、仕事の覚えが悪かったり、やる気がそもそもなかったり。
例えばお父さんよりも年上のおじさんがポットでお湯も湧かせないこともありました(笑)あとは職員間のイジメとかもあったりもして、ああ、大人は無理だなって思ったんです。
当時の私は置かれた環境で、どう職員のモチベーションを上げ、より良い介護を提供するかという考えには至らなかったのも問題ですが。

もう1つは、同世代の無関心ですね。大学生のときに震災があったのですが、そのとき多くの人の「誰かのために何かしたい」という思いは一気に強まったと思うんですね。周りの優秀な友達も復興支援や、国際協力などとても積極的に活動していて、どうすればみんな関心を持ってくれるんだろう、ということをずっと思っていました。

そこに問題意識を感じたのは、私だからなのではないかと勝手に使命感を抱き、かつそこに重きを置いてやっている人はあまりいなかったので、そこを自分は創っていきたいと思い独立しました。
ただほぼほぼ思いと勢いで独立したみたいな感じで、イメージはあったもののちゃんとした事業計画があったわけでも全然なかったんです。

木下:起業に対する不安などはなかったのでしょうか?

秋本:ありましたけど、でも、それよりも・・・

木下:何とかしたいという。

秋本:そうですね。その方が強かったんです。

木下:今は介護の現場に出ることはないのでしょうか?どのように現場の情報収集をしているのですか?

秋本:私自身が現場に出ることはないですね。見学に回ることは時々ありますが。
基本的に現場の情報収集となると、統計データなどではない限り仲間に聞いていますね。
HEISEI KAIGO LEADERSの運営メンバーが今16人いるのですが、介護士だけでも、訪問、デイサービス、グループホームや施設系とバラバラですし、看護師や医師もいるので、現場や専門領域に関してはメンバーから色々教えてもらっています。

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今の介護の現場で必要なことは?

木下:今の介護の現場、業界で、必要なものや、足りないものは何かありますか?

秋本:そうですね、いっぱいありますね(笑)
でも今取り組んでいるところと紐付いてくるなと思うのは、やはりこの業界は人材不足なんですよ。
これからますます介護が必要な人が増える中で、今のままでは人材不足はさらに深刻になると言われています。
その中でおそらく意欲的な若手は多くの企業が欲しいと思っていますよね。

ただ採用したあとに若手が活躍し続けられる環境があるかと言われると、そうでないケースが多いんです。
介護業界は離職率が高いイメージがあると思うのですが、実際には今はもう他の業種とほぼ変わらないんですね。
だけど3年未満で辞める人が7割、1年未満が3割を超えている。しかも辞める人は他の業界へ行く人が多いんです。
例えばIT系の企業で働いていて転職するときって、ITが嫌だからとかではなく、もっと働きやすい環境のIT企業に行こうとか、もっとこんなITサービスに携わりたいとかだと思うんです。

だけど、介護の場合、介護やりたかった人が介護を嫌になってしまう。多分本当は介護が嫌になったわけではないんですけど、理想や想いとのギャップが大きすぎて,介護はもう無理だとなってしまうんですね。それってとってももったいないことだなと。

そういう人も聞いていくと、実はすごく熱い想いを持っていたり、現場の課題をしっかり感じ取っていたりするんです。
だけど、とくに現場に配属されて間もない若手だと、思っていても言える環境はほとんどないんです。
忙しそうな上司に声をかけることは勇気がいりますし、そもそもまだ仕事を覚えていない自分に自信がなかったり、長年務めている人の声が大きかったり、伝えたとしてもどうせ聞いてくれないよなと、次第に自分の想いを諦めてしまうような環境があるわけです。

今ある環境に順応して淡々と働くというか、「もっとより良くするには」なんてこと考えなくなりますね。
もしくは、違う環境を求めて辞めてしまう。そうなってくると今度は、私たちはゆとり世代は忍耐力がないとか、主体性に欠けるとか言われるんですね。たまらないですよね(笑)

その中で私は若い人がずっと居続けたいと思ったり、働き続けやすい環境は、イコールサービスの質も高いのではないかと思うんです。
研究している人から聞いた話ですが、人材が定着している企業は、面と向かっての人と人との接触が多いとか、研修が定期的にあったり、地域に根ざしていたりするわけです。
若い人が活躍できる、可能性を発揮できる環境を企業内外でつくっていけたらと思っています。

view_image02.jpg「KAIGO MY PROJECT」の様子(写真提供:HEISEI KAIGO LEADERS )

秋本さんが代表を務める株式会社Join for Kaigoが運営する次世代リーダーコミュニティ「HEISEI KAIGO LEADERS」では、自らの経験から、自分のミッションを見つけていく『MY PROJECT』体験イベントを開催中です。

(次回へつづく)

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