石井力重さんとの対談インタビュー第3回では、「ブレストの4原則」のひとつである、"プレイズ・ファースト"という概念について詳しくお話をいただきました。どのようなプロセスを辿れば、アイデアを強化させ良いブレストを実現できるのでしょうか?

徹底的に懸念事項をたたき出す
そうしてはじめて「良いアイデア」が生まれる

石井:そして次がいよいよ批判なんです。
「C」は「Concern(コンサーン)」、懸念事項とか批判事項っていうんですが、今度はアイデアを徹底的に叩きます。これ自体もブレストとして、「いや、そんなこと起きないから心配しなくていいよ」といったとっぴな懸念事項まで言っていいんです。
ブレインストーミング・クッキー作ったら、どんな心配事がありますかね。

桐谷:中毒患者が出るんじゃないかとか。

石井:そうですよね、中毒。それから糖尿病が増える...。

桐谷:人が努力しなくなるんじゃないでしょうか。

石井:なるほど、怠けモノになる。あとは、お爺さんがあまりに活発になりすぎて、脳溢血や窒息で死んでしまうかもしれない。それから、みんながお菓子を食べ過ぎて、オフィスが汚れて総務に怒られるかもしれない。

桐谷:国家が崩壊するかもしれないですね。税金を払わなくなったりして。

石井:なるほど、みんなが怠けモノになっちゃうから、税金でやっていた国は崩壊すると。

桐谷:会社に行かなくなるかもしれないですね。

石井:そうですね。それで親も、仕事も家庭も放棄して、想像的に妄想ばかりしている、"妄想国家"になっちゃうかもしれない。あとは虫歯が増えるかもしれない。

桐谷:朝、起きなくなったりするかもしれないですね。

石井:こんなふうにして、ブレストの形をとって批判をします。
普通、"懸念事項出し"っていうと、まじめにやんなくちゃいけないと考えてしまい、とっぴな懸念事項が思い浮かんでも、「いや、そんなこと起きないから」なんていって排除してしまいますが、そういうのも出していいんです。
質の良いものだけではなくて、くだらない懸念事項でも必要以上に出してあげるんです。
そうするとその懸念事項が別のよい懸念事項を呼び起こしたりします。そして、「この使い方をされたら危ないな」とか「この対象者にも危ないな」とか、様々な懸念事項が思い浮かんできます。
そして最後は「オーバーカム(Overcome)ブレスト」、オーバーカム、乗り越える、克服のブレストに入っていきます。いま挙げた懸念事項の中で、一番重要なものはどれだろう、と二人で選びます。
ちなみに、挙げた中で一番重そうな懸念事項って、どれでしょうね?

桐谷:いちばん重そうなのは、働かなくなるっていうのですね。

石井力重さん

石井:そのほうが心地いいからですね。
最後の「オーバーカム・ブレスト」は、「ブレスト・クッキーを作った場合、人が働かなくなる、これを防止するには、どうすればいいか」という対策案創出の作業です。
非常に効果があって、実際にアイデアがどんどん湧くような良い話し合いができるようになるクッキーができあがったとします。
しかし、それを食べ過ぎて、みんなが働かなくなる、これを防止するにはどうすればいいだろうか、何が思いつきます?
これ自体がブレストなので、効果性が無いような打ち手でもいいです。
食べ過ぎると一定時間食べたくなくなるような薬を混ぜておく、労働意欲を増すような粉も入れておく。
ブレストばかりしたくなった人のために、ブレストだけで成り立つような職業をたくさん開発して、「どうそブレストしてください」とかありますよね。

桐谷:法律を変えてしまう。ブレインストーミング・クッキーは一日に一個とか。(笑)

石井:なるほど。
このようにして進めていくと、ブレインストーミング・クッキーを食べ過ぎて、みんなが働かなくなるっていうのは、なんとか防げそうだ、というのが見えてきますね。
今は3分くらいでしたけど、20分も30分も挙げていくと、それを全部を尽くせば、「一番目の懸念事項は、なんとか消せるな」ってところまで来るわけです。
次は2番目を消すために20分、3番目を消すために20分、このようにして上位のワン、ツー、スリーを消すためのブレストをするのが「オーバーカム・ブレスト」です。
上位3つくらいを消しこむと、それより重要度の低い下位の小さい懸念事項の打ち手は、上位の対策案に含まれていることが多いので、下位の懸念事項はだいたい消えます。
こうしてCとOを経ると、懸念事項の無い、良いアイデアになるわけですね。これが、アイデアの強化プロセスなわけなんです。

石井力重さん

アイデアの潜在的な可能性を引き伸ばす
"プレイズ(褒める)・ファースト(先)"

石井:さて、「PP」は"褒めるブレスト"、「C」は"批判ブレスト"、最後は「O」"克服ブレスト"でした。
このPPCO、「PP」無しではじめると、うまくいきません。
例えば、目をキラキラさせて「ブレインストーミング・クッキーをつくりたい」と提案者が言ったときに、「じゃあ、懸念事項出しからやろう」と言うことでCからやると、だんだんと発案者の顔が暗くなっていくんです。
「たしかに食べ過ぎってあるかもしれない、そうだよな」とか、懸念をどんどんぶつけていくと、アイデアが潰れそうになる。
すると発案者が暗い顔するから、相手の人は「あまりいい過ぎるとこの人のアイデアを捨ててしまいそうだから、クリティカルなことを言うのはやめておこう」となってしまう。ところが、"懸念事項出し"を全力でやりきっておかないと、克服したって、せいぜい小さなものにしか過ぎず、放っておいた懸念事項が、後々牙をむくわけです。
なので、遠慮せずに、重要だと思うものはここで全部出さなければいけない。
懸念事項だしというのは、アイデアの上に重たい重しをばしばし乗せていく行為ににています。上に重たいのが乗った時に、アイデアのふくらみが弱いと潰れてしまうので、はじめにアイデアをたくさん膨らませておかないといけない。
その場にいる人々の心を期待感でパンパンに張っておかなくてはいけない。そのために「C」の前に「PP」というフェーズが入っているんですね。
さっきPPで言った、紛争が無くなるかもしれない、あれなんかいいですよね。もしそんなのがCの前に提示されていたら、Cのフェーズで難しい懸念事項を突きつけられても「そうそう簡単に、このアイデア捨てたくない」って思うわけですよね。
こういう、チームの心をパンパンに張っておいて、そのあとの懸念事項にどんなに重いものが来たとしても、平気って思わせる、そういうことをした上であれば、はじめて"懸念事項出し"、つまり"批判ブレスト"が成功するわけなんです。

石井力重さん

石井:さて、そこで言いたかった「プレイズ・ファースト」の概念が、ここに組み込まれているわけなんですね。「プレイズ」が先、「懸念」があと。この順番が逆だとダメなんですよ。
例えば、実験としてこういうことをやったことがあります。
"懸念事項出し"をやったあとに、褒めてみる。ところが全然ダメなんです。
冷静な批判、深い批判もなされていないし、さっきの紛争が無くなるかも、って言われたときに、僕の心の中では光るわけですね、「あー、本当にそれは良いことだな、ほんとに作ろうかな」って思えてくる。
ところが、先に"懸念事項出し"があって、みんなが働かなくなるんじゃないか、犯罪が増えるんじゃないか、ということを言われてしまうと、心がもうモティベーティブにはなれないんですよね。
そのあとで、どんなに良い言葉で褒められても、もう、アイデアとしてつぶされてしまって、心の中が広がらない。
アイデアというものは、いわば芽みたいなもので、ゼロからアイデアを作り出すときには、先に与えなければならないのは、日光だったり、暖かいものだったり、良い面、褒めるほうが先。
最初に冷水をかけつづけておいて、あとから日光を与えても、もう死んでしまっているんです。

桐谷:子どもの教育も、同じような感じですよね。

石井:同じですね。
例えば、部下が「こんなことをやりたいんです」って言ったときに、上司としては危なっかしいところが見える。
「危なっかしいところもある、でも、ある種のクライアントには喜ばれるかもしれない」、とポジティブとネガティブの両方が浮かんだ、どっちからぶつけてやろうかなと思うわけです。
そのときに、よく日本人が間違うのは、「はじめに厳しいことを言って、あとから褒めてやったほうが心証が良いかも」と思って、おもわず批判から出してしまうんですね。
生まれる瞬間、ゼロから何かが萌芽する瞬間っていうのは、「プレイズ」が先でなければ、芽をつぶすだけなんです。もちろん厳しさも必要です、「PPCO」みたいなのもあるけれども、プレイズをやったあとでの厳しさであれば、それは成長の糧になるでしょう。
しかし、それをやる前からこれをやったら、それは単に芽を殺すだけなんです。
この「プレイズ」が先という順番を知っていることで、非常にアイデアを扱うことがうまくなります。ちなみに、量もある程度指摘されていて、「褒める8:批判2」くらいだと言われています。
そしてようやく懸念事項が出せるものなんですよ。
最初に褒めて褒めて、それから懸念事項を出す。すると残るアイデアは大きなものなんです。
ところが、批判ブレストを先にすると「こんなことがあって危なっかしいね」「じゃあここはやめよう」「ここもやめよう」「そこもダメだ」となって、非常に小さくなってしまい、新規性の無いようなものばかりが、残っちゃうわけなんですね。
ということで、潜在可能性の揺らめく辺縁をいちばん広くまでとってやろうと思ったら、やるべきことはまず「プレイズ」。
いろいろ言いましたが「ブレインストーミング」中に、「プレイズ・ファースト」をすると、非常に相手がノッてきてくれます。それだけでも十分いいですよね。

(次回へつづく)

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