コミュニティデザイナー 株式会社studio-L代表 山崎亮さんへのインタビュー記事 最終回では、これからの生きかた、働きかた、そして新しい地域のありかたなど、山崎さんが考える「未来のつくりかた」についてお話をいただきました。

山崎亮さん

山崎亮さんのプロフィール

株式会社studio-L代表/東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科教授/慶応義塾大学特別招聘教授

1973年愛知県生まれ。
「人と人とをつなげる」コミュニティデザイナーとして、地域の課題を地元の住民たちが解決するためのまちづくりワークショップや、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトに携わっている。
「海士町総合振興計画」や「マルヤガーデンズコミュニティデザイン」等、数多くのプロジェクトを手がける。
主な著書に『コミュニティデザイン(学芸出版社)』『ソーシャルデザイン・アトラス(鹿島出版会)』『コミュニティデザインの時代(中公新書)』『まちの幸福論(NHK出版)』などがある。

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お金を払って誰かに楽しませてもらうのではなく
どう楽しみを自分たちで生み出していくのか

桐谷:日本はGDP2位までいきましたが、それによってモノとかお金があるからハッピーではないという結論がでてしまい、今成熟社会に入った中で新しい文化をつくりだす能力というのは、過去の20世紀の能力ではなく新しい能力ですよね。今の20代、30代がつくろうとしているものは、ゆるやかな共同体のようなもので、それが各地で起こり始めていると感じています。

山崎:そうですね、やはり今はもうお金で買う、ということでは満足しないということを感じすぎている世代でしょうから、貨幣で手に入るものでは飽きるしつまらないこともわかったし、日本独自の状況だけれど、長い間不況が続き、貨幣自体もそんなにたくさん持っていないとすれば、貨幣以外で得られる我々の楽しみはなんなんだろう、お金は使わないけれども楽しさを生み出していくという力をつけたいなと思っている若者は結構多いと思います。じゃあそういう人たちが一緒に集まって何かする中で、どう楽しみを生み出していくのか。お金を払って誰かに楽しませてもらうのではなくて楽しみ自体を自分たちで生み出すという能力を高める、そんな若い人たちが増えている気がしています。これはとてもいい動きじゃないかなと思いますね。

桐谷:本当にどこかの時代で一気にガラっと変わると感じていまして、それがコミュニティの強いところ、移住者がやってきて移住者を受け入れる土壌がある地域、例えばIターンUターンそれから元々ずっといる地元の人と新しい文化を発信している安曇野や海士町、南房総もそうだと思うのですが、そういう地域から新しいムーブメントが広く伝播していくような、そんな感じがしているんですよね。

山崎亮さん

山崎:徳島の神山町もそうですよね。サテライトオフィスに若い人たちが来ています。
大南さんの面白いところは、彼らはもともとああいうことをしようと思っていたわけではなく、大南さん自身が小学校のPTA会長になったことが最初のきっかけです。PTA会長は初めてだったので試行錯誤しながら前会長に話を聞いて、さらにその前の会長も一緒になって3人集まったそうです。3人が意気投合して、何か始めたいという気持ちになった。

同じ想いを持った仲間と、
地域のために楽しいと感じられることを続けていく
その繰り返しが、周囲の人々の応援を創り出す

山崎:あるとき徳島県が国際文化村構想を立ち上げて、神山町がそこの敷地なっていて、世界中のアーティストが作品をつくりに来るというものでした。でも神山町に住んでいる人々は誰もその構想を知らなくて、県が勝手に描いていたことだったので、それはよくない、神山の人たちみんなで文化村構想を作ろうということになって、この文化村構想は知事が変わって途中で止まってしまったのですが、でもこの神山の住民だけでする文化村構想もあるんじゃないかと自分たちだけで話し合って、結局アーティストインレジデンスというのをやろうということになりました。

神山に空き家があるから、空き家に外国の人たちに住んでもらって半年、1年滞在してもらい、そこで作品をつくり続けてもらう、そのときに必要な食材は地域の人たちが応援する。毎年違うアーティストが世界から3人ずつきて、作品をつくっては神山町に置いていってもらい、みなさんがそれをお世話していく、ということをすれば、神山は世界の神山になっていくんじゃないかと考えて、県のお金でなくともできることだからしようということで、この3人を中心にしたチームでアーティストインレジデンスという活動を始めるんですね。
15年くらいこのプロジェクトをすすめるですが、結構有名なアーティストが来てくれて、地域の人たちも受け入れてくれるんです。集落は受け入れが難しいのですが、こういう風の人、旅の人をもてなすのは徳島のお遍路文化の中で、もてなしの気持ちが根付いているからでしょう。外国から来たアーティストが、神山のアーティストレジデンスは非常によかった、世界中でも地域の人たちがあれだけおもてなししてくれるのは珍しいと話題になって、神山に行きたいという人たちが増えてきたらしいです。

山崎亮さん

写真提供:株式会社studio-L

これを10何年と続けてきて、ある時アーティストではなく、働きたいという人がここへ来て1年間住んで働く、というワークインレジデンスをしてもいいんじゃないかということになりました。結局東京で働くのもいいけど1年くらいは神山町で仕事をするということをしはじめたら、徐々にその人たちが神山町で働く楽しさに気づいて、サテライトオフィスをつくりたい、東京に本社があるいくつかの会社がサテライトオフィスを神山につくって、会社の何百人という中から何十人だけが神山で働くことになった。こんな会社が1つ、2つ3つとでるようになってきた。今は10数社あるらしいのですが、1社あたり10数人だったとしても、100人前後の若い人たちが神山の山奥で働くことになったんです。

そうすると、さらに彼らはお昼ご飯が食べたくとも、ランチの店がもちろん神山には無く、おしゃれなランチが食べたいなと思った。そんな時に、イタリアで修行してきた経験があるのでイタリアンレストランやりましょうかという女性がでてきて、レストランがオープンしたり、フェアトレードでコーヒー豆を仕入れるカフェができるようになってきた。レストランやカフェができて、そこに100人くらい地元の人たちが食べにいくようになってきたら、今度はレストランのオーナーがここはやはりオーガニックにこだわりたい、無農薬・減農薬の食材がほしいと神山の農家さんにまわったらしいんですよ。そしたら神山の農家さんが全員口を揃えて、無農薬、減農薬は経験も無いし流通もしないし無理だと言った。しかしレストランが、あなたたちが作ったものは全部買い取るから、作ってくださいと言うので、全部買い取ってくれるならと、神山の農家さんたちが無農薬・減農薬の食材を作りはじめているんですよ。25年間の取り組みで、今や国も言及するような神山町、サテライトオフィス、グリーンバレーということになっているんですよね。

彼らが始めた当初は全くこんな状況をイメージしていないんですよね。だから南房総にしても他の日本の地域にしても、まだ地域を元気にしようと一生懸命肩肘張る必要は無くて、自分たちが気の合う仲間と楽しいことをする、楽しいことをしながらも、していることが地域のために少しでもなっているかなということを繰り返していたら、応援してくれる地域の人たちが増えてくる。地域の人たちが応援してくれるようになると、できることも少しずつ増えていくと思うのです。25年かけて日本のモデルになるような活動になっていった神山の歴史は僕らを相当勇気づけてくれるという気がしますね。

ものに集まる働き方はもうなくなっている
場所にとらわれず、
自分がいきいきといられる環境を探しにいけばいい

桐谷:私が二拠点居住を始めたのをきっかけに会社の出社義務を無くしてスーパーフレックスにしたら、メンバーがどんどん東京から出て行きました。鎌倉や葉山、一番遠い場所だとニュージーランドまで行ったデザイナーも出てきたという現象が起きているのですが、不思議なことにきちんと組織としてうまくいっているんですよね。この状況を見て、これから日本のワークスタイルは大きく変わってくるなと感じているのですが、今後の日本のワークスタイル、ライフスタイルは変化していくと思われますか?

山崎:変えていかないといけないでしょうね。今の時代本来の我々の働き方というのをもう一度見直していかないといけないですね。ものに集まるという働き方は変わってきていますよね。スマホでほとんどの仕事ができるようになって、どうしてもという時だけラップトップを開ける、というのが今の仕事のスタイルになってきていますから、そうなったときに自分たちが生きていくことと働いていくことをかなり近づけることができるようになってくる時代だと思います。

山崎亮さん

山崎:そういう問題意識で、『ハードワーク! グッドライフ!:新しい働き方に挑戦するための6つの対話』という本を出版したのですが、日本ではハードワークという言葉は悪い意味のように捉えられるので、ワークライフバランスということになってきてしまうのですが、ワークとライフを分けてバランスさせようということとはまた違う時代になっていくでしょう。

山崎:もちろんワークライフバランスという言葉自体は、ワークとライフを分けるという意味ではなくて、ライフの中にワークが入っている、しかしこのワークの比率が大きくなりすぎてしまうと、ライフできっちり休んだり整理したり、新しい活力を手に入れてワークに還元するというこの還元作用が小さくなりすぎてしまうので、ライフの中におけるワークの比率をある程度小さくして、バランスを整えればいきいきとした発想がワークに出てくるよという考え方だと思います。
しかしもうこれ自体が溶け合ってしまうという考え方もあるような気がするのです。まちを歩いているときにも、次の何かがはっと思い浮かんだり企画を考えたりすることもありますから、もう境目は無いですよね。そういうことを意識しながら働かなければいけない人たちもいるとは思います。そうではない働き方が主流になる時代においては、2025年問題をどのように解決していくかは、医療や福祉の分野だけではだめで、働き方もかなり関わってくるし情報や技術もかなり関わってくることになるだろうと思いますね。

桐谷:東京でなければならない仕事ってだんだんと無くなってきているんですよね。
都市に出社しなければいけないという流れがなくなっていくような気がしますね。

山崎:今の時代は場所に縛られる必要もないし、アイデアがわいてきて自分の仕事をいきいきとできる環境を探しにいけばいいんだろうと思います。

桐谷:非常におもしろかったです。ありがとうございました。

これにて4回に渡った山崎亮さんとの対談記事は終了です。
とても貴重なお話、ありがとうございました。

※インタビューに掲載されている企業・団体様の活動と弊社は一切関わりがございません。

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